ヒコ釣具


皆さん。四国は高知県高知市に「ヒコ釣具」なる釣具屋があるのをご存知でしょうか? 
知らない方は結構多いかと思います。街を車で走っていても決して見ることはありません。それもそのはず!なんとこのショップは「無店舗販売」なのです!と言っても、インターネットで検索してもでてこない・・・。そう!このお店のお客様は
B君1人だけなのです!!

あっ!申し遅れました。ちなみに私はヒコ釣具店長の友人です。ヨロシクね!


 今を遡ること3年前、
「皆様に愛されるショップを!」「磯釣りの発展と普及に尽力したい!」「物を売るのではなく自分を売れ!」(売春じゃないぞ!)等々、数々のスローガン、目標、理想を掲げオープン致した。


 あれから・・・はや3年・・・。短くもあり、長くも感じる3年間でした。彼が今までやって来れたのも、ひとえにお客様(B君)のご愛顧、ご協力があっての事と感謝しているみたいです。


 それでは、この3年間の「ヒコ釣具史」を振り返ってみましょう。

 3年前・・・

 ヒコ釣具は高知市でひっそりとオープンした。しかし!当時彼は大きな問題を抱えていたのである。運転資金がない・・・。商品を仕入れる予算もない・・・。そう、つまり資金難だったのだ!前向きな彼は自問自答を繰り返した。「今の自分に何が出来るのか?」「少ない資金で出来る商売は本当にないのか?」等々・・・。そして、悟りをひらいたのである。


 その年の10月、B君の携帯にメールが着信

 
「祝!ヒコ釣具ワンダフルオープン!」というタイトルにB君はギョッとした。なにか・・・いやな予感がする・・・。が、思い切ってメールを開いた。


「ヒコ釣具がオープンしました!!つきましてはオープンイベントとしまして、ウキ交換会を開催致します!!あなたのバッグの中に使わないウキが眠っていませんか?この機会を利用して、全て自分好みのウキでバッグを一杯にしましょう!!」


 B君は
「おっ!なるほど!面白そうだな!」と思ったのか、直ぐに「参加しま〜す!」と返信したのであった。
 ここでヒコ釣具店長とB君の関係について触れておこう。

 彼らは中学からの同級生。決して真面目な方ではなかった。けれど、心の真っ直ぐな少年達でした。

 店長とB君は仲がよかった。しかし、B君には少し不満があった。
店長に逆らうと殴られるという事だ。B君は唯一その部分だけは直してほしいと思っていたが、約25年経た現在もまだ直っていないみたいである。B君は何度も忠告しようとしたが言い出せなかった。殴られるからだ。

 そういえばこんな事があった。

 高校を卒業し車の免許を取ったB君は店長を自分の車に乗せ、自宅まで送り届けた。店長の自宅は高台にある高級住宅街?で、坂道を登っていった先にある。あまり広くないスペースで車を回して降りてこなければならない。免許とりたてのB君は車を回す自信がなかった。

B君
「おい・・・。難しいぞ・・・。」

店長
「おまえヘボやのう!よし!俺が回しちゃる!のけ!」

彼らは運転を代わった。その直後悲劇は起こった。
「ゴスッ!」B君は首に衝撃を受けた。自信満々の店長が運転するB君の車はバックで鉄柱に突っ込んでいた・・・。二人は車から降り後部に回った。リアバンパーが凹み、片方がブランブランに垂れ下がっていた。

B君
「げっ!!」

店長
「おお!あはははは!大丈夫、大丈夫!地面には着いてない!車は回った!よし!もう帰れ!」

B君はバンパーをブラブラさせながら帰路についた。文句を言いたかったがやめた。
殴られると痛いからだ。


 交換会当日

 夜8時。店長はB君宅を訪れた。

店長
「おい、お茶!チンチンに熱いやつぞ!早くせえ!」

B君嫁
「は〜い!分かってますよ〜。」

なんと!店長はB君のカミさんにまで強かった。まるで自分のカミさんのように扱う・・・。

 店長はドカッと椅子に腰を下ろした。実に落ち着いた表情だ。リラックスしている。そう・・・まるで自分の家にいるかのように・・・。


店長
「はい!それではウキ交換会を開催致しま〜す!では!ウキを出してくださ〜い!」



「了解!」
と、B君はウキケースをテーブルの上に出した。

 店長はすかさずそれを手に取った。

店長
「どれどれ・・・」

B君
「使ってるやつがあるき、どれでもはいかんで!」

店長
「分かっとる!」

 店長はしばらくの間B君のウキを吟味した・・・。

店長
「おっ!これがえい!これに決めたー!」

B君
「だめ!絶対イカン!それ使いゆうもー!」

店長
「ウソをつくな!使いよったらウキに少しはキズがあるはずや!このウキはピカピカじゃか!つまり、使ってないウキや!そやろ?」

B君
「うぅぅ・・・。」

店長の手の中には「松○郎」と書かれたウキが踊っていた・・・。


しかし!B君も負けていない。


B君
「そいじゃあ、お前のウキケースを見せえ!」

店長
「かまんよ〜!全部あげる!」

店長のケースを手に取るB君。

B君は気絶しそうになった・・・。ウキケースの中には7個ほどウキが入っていたが、割れ

た物・・・どう考えても自分で作ったゴミみたいなウキ・・・「2B」と表示されてるがど

う見ても30Bはありそうな絶対沈まないウキ・・・。


店長
「そいじゃ!俺帰るわ!ビール飲んで寝る!バイバイ〜!」

上機嫌で帰っていったのである・・・。

 その一ヶ月後・・・・・


 仕事中のB君の携帯に一通のメールが入った。

タイトルは「今ヒコ釣具が熱い!!秋の大特売!!!」

 B君は目眩を押さえながらメールを開いた・・・。


「会員様だけの特別セールです!!ダ○ワ トーナメントZがこの価格!中古ですが・・・。」


 B君は店長がつい先日ダ○ワ トーナメントISOZを買ったのを知っていた。

「ははぁ・・・いらなくなったから売るつもりだな!」ということは直ぐに理解できた。

店長は道具を大切にするし状態は良いだろうと判断し、
「買います!!」と返事したのである。これが悲劇の始まりだった・・・・・・。


 納品当日。


 夜8時、店長はB君宅のチャイムを鳴らした。

 ニコニコ顔で応対に出るB君嫁。「お茶!」と言いながら自分の家のように上がり込む店長。

 店長は自分の買った新しいリールの自慢話をひとしきりした後、ついにクロロプレーン

のケースに入った商品をテーブルに置いた。身を乗り出すB君。

店長
「なかなか上等やろ?」

B君
「えいねー!得した気分や!ほんまにこの値段でかまんが??」

店長
「ありがとうと言え!」

B君
「ありがとう!!」満面の笑みを浮かべるB君。


しかし!ここで彼は違和感を憶えた・・・。
「おかしいな・・・何か足りないような・・・んん??」

 そういえば、このリールにはステンレスの予備スプールが付いていたはずだ!


B君
「おい!スプールは!!」

店長
「付いとりますがな?」(なぜか関西弁に・・・)

B君
「予備のスプールや!!頼む・・・くれ!

店長
「ほしいか?」

B君
「ほしいとかの問題じゃない!
早う出せ!」

店長
「ほしかったら売ってやる。」

B君
「いかん!いかん!あほう!
もともと付属してる物や!」


店長
「うるさいのう・・・。じゃあ・・・しばらく貸しちょけや!」(眼光が鋭くなる店長!)

B君
「・・・・・。じゃぁ・・・大事に使ってよ・・・。うぅぅ・・・。」


店長は永遠にスプールを借りたままB君宅を後にした・・・。


そして今年6月ダ○ワからニュートーナメントが発売される。

 5月・・・。

B君の携帯にメールが入る。
タイトルは「早い者勝ち!上得意様にお届けする春の特売セール!!!」だった・・・。

 
B君は考えた・・・。

 「ははぁ!来月新しいリールが出るから、また古いリールを俺に売る気だな・・・。

しかーし!もう俺は騙されんぞ!!いったいどれだけ付き合いが長いと思ってるんだ!あいつのしそうな事ぐらい大体見当がつく!ぷぷぷっ・・・見え見えだ!よ〜し!

今回は先手を打ってやろう。悪いが今回は俺の勝ちだな!ぎゃははは!」

 折り返し店長の携帯にメールが入る。

「完品じゃないと買ってあげませ〜ん!スプールもちゃんと付けないとダメ〜!」

 店長は返信した。

「分かりました。元箱も付けますからお願いします。」

 B君は気分が良かった。

店長と付き合い始めて25年。今まで一度も勝ったことがない。
いつも
「ギャフンッ!」といわされる。

それがどうだ!今回は完勝である。

 その日、B君は勝利の美酒に酔いしれたのである・・・。

 私は店長にそっと聞いてみた。

「今回は手も足も出ませんね。」と。

彼は静かに答えた。

「いや・・。大丈夫。前のZのスプールを付ける。」

 世の中上には上がいるものですね。

おわり。